
98歳義母「特養」介護体験記|コロナ禍の特養介護生活と2介護施設での費用を11記事で回想
8.サ高住・特養利用体験から考える望ましい介護システム(2020/7/12)
サ高住と特養、2つの異なる介護施設を経験し、異なる介護費用体系も経験しました。
当然それは異なる介護生活だったわけですが、残念ながら、特養は新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言下での全期間面接禁止の異常な生活になってしまいました。
これは介護保険制度がどうこうという問題ではありません。ただ、この期間で多くの介護施設でクラスターが発生したことは、介護サービスの在り方、介護施設運営の在り方に、何らかの課題を残したのではと今は感じています。
今回は、サ高住・特養の2種類の介護施設と事業を、介護制度と結びつけて、体験した者の視点で感想等まとめてみることにします。
要介護2以下の日常生活困難高齢者は、どうすればいいのか
特養が、要介護3以上でなければ入所できないことで、要介護2以下で、自立した生活を送ることが困難な高齢者は、どうすればいいのか。
在宅介護・家族介護することが困難だった要介護1の義母は、やむを得ず、サ高住に入所しました。
しかし、経済的な負担は大きく、前回報告したように、要介護4で特養入所の場合と比べると、毎月10万円程度負担が大きく、月々の負担は、大抵の場合23万円以上になります。
義母が毎月受け取る年金額が11万5千円。
それとほぼ同額、別枠からの出費が必要でした。
これが5年続いたのですが、骨折しなかったら、まだ当分サ高住生活を続けることになり、負担も継続。
さすがに、もうムリという状況になってきた時に、運良く?特養入所が実現したのです。
義母は、早く離婚して働き、なんと90歳まで細々と生命保険の営業をした女性。
60歳頃から、私たちと同居し、自身は働いて自分のことだけをやっていればよく、家事は一切しない生活。
そのため、少ないながらも厚生年金も受給できたため、多額ではなかったのですが、そこそこの年金を得ていたのです。
当然国民年金だけならば、特養の費用としても、とても足りません。
もし配偶者がいて、厚生年金に入っていて亡くなれば、遺族年金が加算されます。それでもやはり特養の負担には足りないでしょう。
(もちろん、離婚したのでそれもなし。)
市民税非課税者(下図第3段階)や年金受給額等年間所得80万円以下(第2段階)、あるいは生活保護受給の場合(第1段階)は、月7万から10万円程の負担でなんとかなります。それも、特養に入ることができれば、でのことです。
やはり、要介護3以上でも未満でも、介助を必要とする高齢者が、安心して入所し、介護サービスを受けることができる適切な施設がないのが現状です。

サ住と特養の中間型入所型施設の必要性
せめて、要介護3以上でも未満でも、特養に必要な費用と、サ高住でかかる費用の間くらいの額で利用可能な施設があれば、と思います。
2025年には、団塊の世代の全員が後期高齢者となります。
それ以降は、入居型施設のニーズが、一気に増すことは確実です。
今のような状況が続くならば、その時には特養は、数年待ちが当たり前に。
(一部の地方では、そんなことはないかもしれませんが。)
かといって、だれでもサ高住や、より負担が大きい有料老人ホームに入れるわけではありません。
特に、要介護2以下で、訪問介護や通所介護でなんとかしのいでいる在宅介護・家族介護の高齢者の何割か。
サ高住と特養の間くらいの月々の費用で利用できる形態の施設があれば、相当利用すると思います。
一つの目安としては、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合計した額の年金収入で賄うことができる施設です。
但し、そこから介護保険料や住民税が引かれるので、手取り額が月16~20万円の幅で収まる施設です。
国の介護政策に、こうした実態やニーズに合った介護施設の基準作り・設置方針を加えるべきでしょう。
要介護3以上特養待機高齢者急増に打つ手なし
前項で述べたような中間型の施設が開設されなければ、これから四半世紀くらいは、在宅介護・家族介護への依存度が高まるばかりです。介護士不足が解消するどころか、一層過激に拡大することに繋がるでしょう。
特養が、そう簡単に増えるとは思えないからです。
義母が入所した特養を運営する社会福祉法人は、比較的近接したエリアに地域密着型特養を矢継ぎ早に開設。
今年、もう1事業所開設を予定しているとのことでした。
とは言っても、どんどん増やせるわけでもなく、やはり募集してもなかなか集まらないとこぼしていました。
基準人数の介護スタッフを集められなければ、開業できないのですから。
不足する介護スタッフを、少しでも解消する方法。
もちろんその一つが、「給料を上げれば」となりますが、それも簡単にはいきません。
業界ぐるみで取り組めば、なんとか多少は助かる。
その方法を、過激ですが、次に考えてみます。
訪問介護・通所介護事業(デイサービス)事業の縮小政策と入所施設事業の拡大を
種々の事情で在宅介護・家族介護生活を送っている方々と、訪問介護・通所介護事業を主として営んでいる事業者と介護スタッフには、猛反対を受けることは承知での提起です。
訪問介護や通所介護で、個別のお宅を訪問し、事業所と往復する時間と労力を考えると、その非効率性は疑問がないところです。
別に「非効率だからやめよう」ということではなく、それが介護スタッフの負担を増やし、低賃金の要因の一つとなっており、結果的に介護士不足を引き起こすに至っている。
その事実をどう受け止め、これからどうするのが望ましいかを考えてみる必要があるのではということです。
個別宅を1軒1軒訪問する介護は、必要最小限にすべきではないか。
入所施設で生活していれば、入所する複数の人々がそこでデイサービス・訪問介護を受けることができます、
送迎の往復時間なしで。
介護スタッフの送迎時間も、負担も減り、仕事に集中できます。
経営効率も高まり、収益増も可能になり、給料や労働条件の改善も期待できます。
採用も零細・小規模事業所よりもしやすくなり、人材不足も少しは解消できるでしょう。
介護サービスも、安心して自室を中心にして受けることが可能になります。
自宅で介護していた家族の負担も減り、状況によっては、介護と仕事との両立、介護と保育と仕事の両立も、心配なくできるようになります。
問題は、そういう都合がいい施設があるのかどうか、ということ。
もちろん、費用面の条件も満たす、という条件付きでですが。
単身要介護高齢者の介護:デイサービスから施設入居介護へ
単身で暮らす介護を必要とする高齢者はどうすべきか。
高齢者のほとんどが、自宅で暮らし、自宅で介護を受けることを希望するのが一般的とされています。
しかし、その希望を満たすには、膨大な費用がかかります。
訪問介護か送迎付きのデイサービスを利用する。
あたり前のことのように思われていますが、すべてに応じていたら、これから後期高齢者が激増する時期に入っていくと、人的・物理的に対応不能になります。
極論ですが、デイサービス事業は、リハビリ専門のデイサービス事業を除いて、廃止し、すべて入所・居住型の施設に転換することが望ましいと考えています。
持ち家ありの高齢者の場合は、その物件の売却や転貸を図り収入を得るようにし、その収入を入所施設での生活の形成・維持・向上に充てます。
賃貸住宅入居高齢者は、それを解約して施設に入所し、これまで負担していた家賃を、入所費・生活費に充てるようにします。
これが理想と思います。
ですが、残念ながら現状は、適当な施設がありません。
もしこのような施設ができたら、サービス計画を建てる介護支援相談員・ケアマネジャーは、その施設に付属して居宅支援事業を営む事業所に所属するのではなく、別途独立して事業を行う個人か事業所所属であることをルールとすべきです。
その理由は、以前書きましたように、施設内でケアマネジャー業務を行っていると、施設の都合で、不要不急の介護サービスを計画に組み入れて、収益を上げようとするからです。
所属せず独立していれば、利用者サイドの視点で必要なものだけに留めるからです。

高齢夫婦世帯が利用する中間型施設
単身要介護高齢者が増えるのと同様に、高齢夫婦世帯もまだまだ増えていきます。
どちらかまたは夫婦共に、介護を必要とする場合、当然、自宅での介護を選択することになるケースがほとんどと思われます。
しかし、こうした場合でも、先ほどの中間型の施設で、夫婦が一緒に入居できるタイプの部屋があれば、これを選択する夫婦もいるのではと思います。
但し、部屋に最小限の調理機器が設置されている必要があります。
むしろ、こうした基準の事業所の開設を奨励する政策を採用するのが良いと考えます。
これも、先述した訪問介護・通所介護の削減と一体で進めるものです。
余談ですが、こうした箱物を増やすことについて反対する政府・官庁・官僚・自治体が必ず存在します。
今は介護施設不足だが、いずれ、2040年以降になれば、高齢者数も頭打ちから減少に転じる。
そうなると施設はムダになる。
そんな理由です。
過去、ムダな大規模公共事業をたっぷりやってきた彼らが、なぜか同様の発想で反対する。
心配には及びません。
こうしたしっかり屋根が付いていて、バリアフリーで、プライバシーも守られる個室で形成され、食堂やホールなどの共用スペースもある小規模建築物ならば、いかようにも利用・転用可能でしょう。
バカでかいイベント用建築物とはまったく異なる、人の生活や地域社会経済活動に有用なスペースを、多様に、柔軟に提供することになるでしょう。
老後資金2000万円必要の現実性
例の、年金をもらえても、老後資金として別に2000万円は必要という話。
これは、前回報告した義母の例を見て頂ければ、何の不思議もない、至極当然のことと理解できる話でしょう。
93歳でサ高住生活となったわけですが、5年間で、年金収入をまるまる支出しただけでなく、それ以外に毎年120~150万円支出しました。
それに入所時・退所時の諸経費、追加で買い求めた衣料品・日用品・食料品などのコスト、外来での医療費などを加えると、5年間でのおおよその総額は、800万円を優に超えます。
自宅で家族介護となれば、これほどかかることはないでしょう。
しかし、それでも重篤な病気や怪我での医療が必要になったり、比較的早く介護を必要とする状況になったり、どうしても家族介護や在宅介護が不可能で、施設を利用せざるを得なくなった場合。
一応高額医療制度による補助はありますが、保険適用外の諸費用がかさむリスクは高まります。
2000万円の資産・資金でも安心・安泰と断じることはできないかもしれません。
まして夫婦で2000万円では心もとない額ではないでしょうか。
こうなってくると、介護制度だけの範疇での課題ではなくなります。
98歳義母の5年間のサ高住と今回の特養入所で一区切りとはなりましたが、共に70歳を超えた私たち夫婦のこれからの生活、介護を必要とする生活への備えと対応をどうするのか。
義母特養入所でホッとするのとは別に、自分たちのこれからを常に意識し、向き合っていくべきと確認したわけです。
(以上2020年7月12日、記)

介護保険制度と介護生活の実情との違い
今回の回想。
国の介護制度・介護保険制度で方針化・基準化されている施設介護の在り方と費用の問題を、サ高住・特養双方の施設利用経験者として、少々乱暴な部分もありますが、縷々述べました。
当サイト自体、制度はこうあるべきという提案を行うのが最も重要な課題とはしていないため、今後も主題に切り替わってくることはないと思います。
欠陥だらけの介護保険制度云々よりも、現実的な課題として、ほとんどすべての人々にとって介護は避けて通れません。そのため、より望ましい介護生活をおくること、そのためにどんな準備や対策を講じるのが望ましいかを考え、提案していくことを重視していきます。
ただ今回の回想を通して、介護保険制度で規定している介護施設の在り方や費用負担額を一人一人の生涯で捉え、評価し、対策を考えてみる。その視点が必要と考えさせられました。
その感じ、考え方が「介護保険制度と介護生活の実情との違い」という表現にもなったのです。
自分たち夫婦自身の問題として、肝に銘じてこれからの望ましい在り方を考えていきたいと思います。

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