• トピックス
  • シリーズ記事以外のマスコミ記事を基にした記事、管理者自身の考えや提案などの記事をこのカテゴリーに設定しています。

「家族じまい」と終活|親子関係と家族代行サービスが示す現代の課題

2024/12/5付日経夕刊に、
「親と不仲 「家族じまい」に需要  介護やみとり、葬儀も代行依頼 」と題した記事が掲載されました。
(リンク先は、電子版有料会員が見ることができます。)
同記事では、高齢化や少子化が進む中、親子関係の希薄化や対立を背景に、「家族じまい」を望む子どもたちが増えている現状が報じられています。
今月1日に、26回にわたって投稿した「望ましい老後を送るための終活8ステップ」シリーズの最終回総括を終えたのですが、その中で「墓じまい」について取り上げています。
「墓じまい」を飛び超えて、というべきか、「墓じまい」に先立って、というべきか、なんと「家族(関係)」を閉じてしまう「家族じまい」という問題を取り上げたものでした。
その記事を要約すると、以下のとおりです。

親と不仲が招く「家族じまい」。代行業者需要が高まる事情

そこでは、親との関係を断ちたいと考える子どもたちが、親の介護や葬儀、遺品整理などを代行業者に委託する事例を紹介。例えば、親の過干渉や暴力、育児放棄などを経験したことで心に傷を抱えた子どもたちが、「親の最期を見届ける役割を第三者に任せる」選択をしている状況が描かれています。
特に注目されたのは、東京都内にある家族代行サービス「LMN」の事例で、登録料など初期費用約55万円を支払い、通院や日用品の買い出し、施設入所の説得、葬儀の手配といった幅広いサポートを提供しているという部分。
親子間の感情的な軋轢を第三者が緩和し、精神的負担を軽減する役割を果たしているわけです。
そうした「家族じまい」に至る背景として、以下の要因を挙げています。
・一人っ子家庭の増加や地域社会とのつながりの希薄化
・認知症患者の増加に伴う介護負担の増大
・幼少期の家庭環境による心的外傷(トラウマ)
そして、家族代行サービス利用者が増加する一方で、サービスの質を担保する法的枠組みが不十分であることや、契約トラブルが発生している問題を指摘しています。

その記事で「家族じまい」が、「終活」への取り組みにおいても重大な問題と位置付けられるべきと考え、本記事で、もう少し掘り下げてみることにしたわけです。

現代日本では、「家族じまい」という概念が注目を集めています。これは、家族関係を整理し、次世代に負担を残さないための行動や意識の一環です。しかし、この背景には高齢化、家族関係の希薄化、そして親と子の複雑な感情的問題が存在します。本論では、「家族じまい」の現状や問題点を検証しつつ、その解決策や終活との関連性について考察します。

「家族じまい」という用語は、2010年代後半からメディアや専門書籍で使われ始めました。
その背景には、日本の少子高齢化が進む中、従来の「家族」という形態が変化し、親子関係の再定義が求められるようになったことがあります。
特に2016年以降、終活市場が拡大する中で、「墓じまい」に関連する話題が取り上げられることが増え、「家族じまい」という概念が注目されるようになりました。当初は、介護や葬儀における役割分担の整理を意味していましたが、近年では親子間の関係性を解消する行為を指すことが一般的になっています。
高齢化社会における新たな家族観やライフスタイルの変化を反映した言葉と言えるでしょう。

「家族じまい」とは、高齢者やその家族が家庭内での関係性や役割を整理し、最期を迎える準備をすることを指します。主に以下の行動が含まれます。
1)介護や終末期の準備:親の介護施設への入所手続き、葬儀の手配、遺品整理。
2)相続や財産整理:子供たちに負担を残さないための事前準備。
3)心理的負担の軽減:家族関係の見直しと、関わり方の再定義。
これを見る限りでは、シリーズテーマとした「終活」そのものと言っても支障ないと思われますが、近年の家族関係の希薄化や葛藤を抱える家庭の増加と解決すべき問題の顕現化が「家族じまい」に着目すべき状況をもたらしたと言えると考えます。

繰り返しになりますが、家族じまいが必要とされる主たる背景を、確認しておきます。
1)高齢化と少子化
日本は少子高齢化が進み、家族構成が大きく変化しました。一人っ子家庭が増え、親戚や地域社会とのつながりが薄れる中、介護や死後の整理が「個人の責任」として子供に重くのしかかるケースが増えています。
2)家族関係の希薄化
日経記事では、「親との関係を断ちたい」と望む子どもが増加している実態が指摘されています。親からの暴力や育児放棄、過干渉などが原因で、家族じまいを選択する子どもも少なくありません。
親子関係にとどまらず、祖父母や配偶者との関係を断ちたい、という例も十分想定できます。
3)ダブルケア問題
介護と育児を同時に抱える「ダブルケア」の問題も深刻です。仕事や家庭生活と介護の両立に限界を感じ、精神的・身体的に追い詰められるケースが増えています。
これらの要素も、基本的には「終活」視点での指摘と根本的な違いはないかのようです。

日経記事で紹介された一般社団法人「LMN」のような家族代行サービスは、親との関係を断つ手段としても利用されています。
前項で示した家族じまいの背景を示すものとして「LMN」は、「当初は身寄りのない高齢者の終活支援事業として始めたが、今は相談の8割が50代前後の娘や息子。月20件ほどの相談があり、3年前の5倍に増えた」としています。
そこでは、精神的な安定を得たとする事例も多く、親子間の対立を第三者が仲介する役割を果たしているのです。
高齢者の終身に関わる家族代行サービス内容は以下に示すように多岐にわたりますが、かつ問題点も日経記事で示されたようにあるのです。
1)主なサービス内容
・生前サービス:用品の買い出し、通院の付き添い入院時の施設入所の手続き代理、緊急時の第1連絡先、徘徊時の身柄引き取り
・死亡時サービス遺体の確認、関係者への連絡、死亡届の申請代行
・死後サービス火葬手続き、葬儀、納骨や散骨、遺品の処分
2)問題点
契約上のトラブル:サービス内容や費用に関する不満、解約後の返金問題などが後を絶ちません。
法的枠組みの不足:こうした状況招いている要因として、サービス提供者の質を担保する法的な仕組み・枠組みが整備されていないことがあります。

高齢者の終活や死後の事務手続きなどを支援する「高齢者等終身サポート事業者」は全国に400社以上。高齢者の日常の世話や、介護や医療サービスにつなぐ役割を家族に依存する状況が変わらない限り、家族代行サービスを利用する人が増える可能性はあるとしています。
ただ「家族じまい」代行サービス利用の主たる理由の一つが、当事者間での改善・解決を諦めさせる修復不能な家族関係に起因するものであることを重視しておくべきなのです。

確かに「家族じまい」は終活の一部として捉えられることが多いのですが、単なる手続きの整理にとどまらず、家族関係をどう築き直すかが問われているのです。一応、終活では以下のような取り組みが重要としています。
エンディングノートの活用: 親が自身の希望や思いを明文化することで、家族の負担を軽減できます。
家族会議の実施: 早い段階で家族全員が集まり、今後の方針を話し合いましょう。
こうした終活を通じて家族関係を再構築することが、トラブルの予防につながるケースも多いと思われます。
こうした終活における基本的な取り組みについては、以下のシリーズ記事で取り上げましたので確認頂ければと思います。
しかし、今回の「家族じまい」では、そうした基本的な終活では改善・解決できないレベルに家族関係、親子関係が悪化してしまっている状況でのニーズに至っているわけです。

こういうテーマで整理してみても、やはり紋切り型のあるべき論になってしまうのですが、ここでも一応確認の意味でメモしました。
1)家族関係の見直しとモラルの重要性
高齢者が日常生活において家族関係を見直し、次の世代に負担や迷惑を残さない姿勢が求められます。以下の行動が効果的です。
・家族に感謝や配慮を示すコミュニケーションを心がける。
・家族間のトラブルを未然に防ぐため、自立的に行動する。
2)子ども側、配偶者側の感情への配慮
一方、親から、場合によっては一方の配偶者のモラルを欠いた行動(暴力、過干渉、介護・育児放棄)が子や配偶者の心に深い傷を残すことを認識する必要があります。このような理解と認識があれば、「家族じまい」(夫婦じまい)を選択せざるを得ない子ども・夫婦の気持ちを理解することに繋がるのでしょうが。

シリーズでの一般論的な提案・説明の枠には収まりきらない大きな問題の一つが、家族関係を断ち切る意味での「家族じまい」。
しかし、その意味での「家族じまい」必要とする人だれもが、「家族代行サービス」を利用できるわけではないのが、問題として繋がっています。その状況を整理しました。

1)家族代行サービス、高齢者等終身サポート利用には金がかかる経済的事情・経済的格差問題

言うまでもなく、家族代行サービスは、介護保険が適用されない、保険外サービスであり、経済的なゆとりがなければこのサービスを利用できません。
特に、介護施設に入所する場合、通院の付き添い入院時の施設入所の手続き代理、緊急時の第1連絡先、徘徊時の身柄引き取りなどを施設サイドの要請に応じて確実に対応する人が絶対必要なので、家族と絶縁状態にある場合、入所はできません。当然、死亡の折り、死亡後の必須となる上述の事項への対応は、実質おひとりさま状態にあれば、こうした代行サービス契約がなければ、宙ぶらりんになってしまいます。
こうした面からも介護格差と死亡時格差が厳然として存在するわけです

2)金があっても、家族代行サービスの質、契約上の課題

日経記事で指摘された家族代行サービス事業そのものについての課題です。
サービス内容の質も含めて、そのサービスを利用するに際して交わす契約内容と契約締結に当たっての注意点を、内閣府が今年2024年6月に公開した「高齢者等修身サポート事業者ガイドライン」を参考に、以下に挙げました。

<契約に当たって注意すべき点>  (参考)⇒ 高齢者等終身サポート事業者ガイドライン
・提供されるサービス内容及び費用
・サービス実行状況(履歴)の確認方法
・入院・入所など必要時の対応方針・方法、医療に関する意思決定の支援
・親の判断能力が低下した場合の対応方針・方法
・預託金の管理方法
・契約解除方法、契約変更、解約時の返金などの関する取扱い
・個人情報の取り扱い方針と管理体制
現状では、<ガイドライン>とされており、法制化に至っていません。すなわち、違法行為と認定する根拠や罰則規定などが法律として規定されていないため、事後のトラブル発生時に、利用者の保護が十分確保・補償されないリスクがあるわけです。
経済的な条件をクリアしていても、こうした代行業者そのものに問題があれば、契約した子どもサイドに問題が跳ね返ってくることになります。

3)「夫婦じまい」の必要性も

家族じまいは親子間の問題にとどまりません。高齢夫婦間で、手に負えないDVや介護トラブルが常態化し、日常生活を脅かされていれば、家族じまいの前に、配偶者は離婚という手段を選択せざるを得ない状況にもなりかねません。
離婚に拠る「夫婦じまい」をもって「家族じまい」とされたとき、家族代行サービスを利用する判断は、残された元夫(元妻)自身が行い、契約を結ぶことになります。
そんな離婚を招かないような夫婦関係を維持できるかどうか、高齢・老齢夫婦の課題になります。もちろん年齢差夫婦もありますが。

1)国や自治体の役割

高齢化社会に対応するためには、家族間の問題を第三者がサポートする仕組みを整える必要があります。具体的には以下が求められます。
・家族代行サービスのガイドライン整備と監督体制の構築。
・地域コミュニティでの高齢者支援ネットワークの強化。
前者の問題は先述したとおりですが、後者においては、「地域コミュニティ」のあり方とネットワークの在り方がどうか、となります。
そこでは、NPOなどに依存すると地域間格差の問題が懸念されることから、結局は地方自治体の役割と責任に委ねざるを得ないと考えます。自治体をサポートするのは当然国ですから、結局、政府及び関連法制の立法府に、家族で対応することができない高齢・老齢者の生活と死と死後に必要な対応責任を委ねるべきとなります。

2)社会的啓発の推進

「家族じまい」が抱える課題を広く社会に知らせることで、モラルの欠如や家庭内での感情的な対立を減らす取り組みが必要です。その社会的啓発の役割を担うのが、地方自治体であり、後方から支援するのが国家レベルの行政府と立法府であることを、わたしたち市民は認識・自覚し、必要な働きかけをする必要があります。
しかし、それにとどまることなく、依存することなく、家族関係の望ましい在り方を自ら具現化、実行化するよう努力すべきとも考えます

「家族じまい」は、終活の一側面と考えて、しっかり「終活」を実践していくことの大切さは、今回の「家族じまい」を知ったことで、理解できると思われます。
その中で、親子関係や夫婦関係が修復不能にならぬよう、相互の思いやりや感謝を日々大切にしていくことを強調することでバージョンアップさせる、とするわけではありません。
それはもちろん大切なことですが、今回強く思ったのは、親との関係を断絶させるに至った当事者の多くが、配偶者や子との自身の家族を形成しているわけで、自身の親との同様の負の関係体験を、自身の家族に決して負わせないということです。
言い換えれば、「終活」を高齢者のみを当事者として考えるにとどめず、現役世代・次世代の共通・共有課題として考え、取り組んでいくべきことを、これから一層強調していく、となります。

「家族じまい」は、現代の家族関係や社会構造の変化を反映した重要なテーマです。
親子間・夫婦間の葛藤や負担を軽減するためには、家族全員が関係性を見直し、終活を通じて新しい関係性を構築する努力が不可欠です。また、高齢者自身が家族を思いやる姿勢を持つことで、より健全な家族じまいの実現が期待されます。
しかし、親子関係、夫婦関係、家族関係の修復不能な関係悪化は必ずありうることで、家族代行終身サポートサービス事業への需要もなくなることはないでしょう。「家族じまい」ならぬ「夫婦じまい」を課題とすべき例も増える可能性もあります。
孤独、孤立という問題は、おひとりさま状態に至っていなくても、家族関係・親子関係・夫婦関係の破綻がもたらす可能性も高く、望ましい終活に反して、望ましからぬ終活の様相を呈し、負の家族じまい・夫婦じまいにたどりついた結果となるでしょうか。
残念ながらその対策に決め手はなく、最終的には、自己責任に収めざるを得ないのかもしれません。
とはいうもののの、最終的には最悪の状況への対応は、行政に委ねざるを得なくなるとしておく必要があると考えます。

なお冒頭紹介した日経記事の最後は
少子化と高齢化が同時に進む日本で、家族頼みの高齢者ケアは限界に来ている。国や自治体は民間事業者とも連携し、高齢者の孤立を防ぐ仕組みを構築する必要がある」という日本総合研究所沢村香苗シニアスペシャリストの言葉で締めくくっています。この沢村香苗氏が書いた新刊新書が『老後ひとり難民』(幻冬舎刊)。来年2025年1月には、この書を参考にしたシリーズをと考えています。

老後ひとり難民 (幻冬舎新書) [ 沢村香苗 ]

価格:990円
(2024/12/7 16:40時点)
感想(6件)

加えて、今回の記事のように「終活」の延長上、あるいは「終活」の枠内の課題として、付け加えていくべきものに関しては、「望ましい老後を送るための終活8ステップ」シリーズの続編と明示して、継続・展開させていくことを検討したいと思います。
これらも「終活」バージョンアップの一環ですが、シリーズ記事そのものを都度リライトし、内容・質を高めていくこともバージョンアップそのものになると考えています。

家族じまいを招かないような対策。
こちらの記事を参考にして、日常の終活における家族とのコミュニケーションを大切に!

⇒ 家族のための終活準備|「望ましい高齢生活を送るための終活8ステップ」ー22 – 介護終活.com
⇒ 老後のライフプランと家族の役割|「望ましい高齢生活を送るための終活8ステップ」ー23 – 介護終活.com

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。