「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」シリーズを、最後に添付している構成に従って進めてきています。前回から、
1.育児・介護休業法とその基本ポイント
2.介護休業制度と介護休業給付金の活用法
3.介護休暇と短時間勤務制度の特徴と利用方法
4.職場の理解とサポートの重要性
で構成する「第5章 仕事と介護の両立を支援する制度を理解し活用する」に入っています。
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第5章 仕事と介護の両立を支援する制度を理解し活用する
介護休業制度と介護休業給付金の活用法
5-2: 介護休業制度と介護休業給付金の活用法
はじめに
介護休業制度は、家族の介護を必要とする従業員が、安心して仕事を休みながら介護に専念できるように設けられた制度です。
この制度は、働く世代が増加する介護負担を軽減し、仕事と介護を両立させるための重要な支えとなります。
本記事では、介護休業制度の概要や生活費の補填方法、給付金の申請手続き、そして現状の課題とその対策について解説します。
1.休業期間中の生活費補填と家計の安定化策
1)介護休業制度の主たる機能とと介護休業補償・補填
介護休業制度は、従業員が要介護状態にある家族の介護を行うために、一定期間仕事を休むことができる制度です。
制度の概要は以下の通りです。
・基本的な考え方
介護を必要とする家族がいる場合、従業員はその家族のために最大93日間の介護休業を取得できます。
この期間は一度に取得することも、複数回に分けて取得することも可能です。
・適用範囲
対象となる家族は、配偶者、子、親、配偶者の親、祖父母、兄弟姉妹、孫などが含まれます。
また、同居している親族や、法律上の養子も対象となります。
・休業期間の設定方法
介護が必要な状況が発生した時点で、従業員は介護休業を申請することができます。
休業期間は家族一人につき93日間であり、この期間は連続しても、分割しても取得可能です。
・介護休業申請と介護休業給付金給付申請
介護休業期間中は、介護休業給付金として、平均賃金の67%が支給されます。
介護休業申出に伴って、介護休業給付金給付申請書を提出すれば、休業期間中原則として支払われない賃金の平均額の67%が、生活費の補填として支給されます。
一種の賃金補償制度といえます。
詳しい手続きは、次項で確認します。
2)生活費補填の方法
介護休業中は、通常の給与が支払われないため、生活費の補填策が重要になります。
以下に、具体的な補填方法を説明します。
・介護休業給付金受給とその計算方法
先述したように、介護休業給付金が、休業期間中の賃金の67%が支給されます。
具体的には、直近6ヶ月の平均賃金を基準に算出され、その67%が月ごとに支給されます。
・受給額のシミュレーション
例えば、月額30万円の給与を受け取っている場合、介護休業中の給付金は約20万円/月となります。
これにより、家計への影響を軽減することができます。
<給付金の計算例>
・平均月額給与:30万円
・介護休業給付金(67%):約20万1千円
3) 家計の安定化策
介護休業中の収入減少を補うための家計安定化策を検討することが重要です。
以下は、具体的な安定化策の例です。
・生活費の節約方法
生活費を削減するために、支出の見直しや節約術を活用します。
例えば、日用品の買いだめ、光熱費の節約、保険料の見直しなどが考えられます。
・他の公的支援制度との併用
介護休業中は、自治体や国の支援制度を併用することで、経済的負担を軽減することができます。
介護保険サービスを利用することは当然ですが、それ以外の具体的な事例とその内容を紹介します。
a. 自治体の生活支援金
自治体が提供する生活支援金は、低所得世帯や介護を必要とする家庭を対象に、生活費の一部を補助するための制度です。支援金の額や支給条件は自治体によって異なりますが、主に介護サービスの利用料、生活必需品の購入費、または光熱費の補助などが対象となります。
(事例)
例えば、東京都では「介護者生活支援給付金」という制度があり、要介護者を抱える家庭に対して一定額の給付金が支給されます。支給額は家庭の収入状況や介護の程度に応じて異なり、申請手続きは市区町村の福祉課で行います。
b.社会福祉協議会の貸付制度
社会福祉協議会では、緊急の経済的支援が必要な家庭向けに無利子または低利子で貸付を行う制度があります。特に、介護休業中の収入減少に対応するための資金や、介護にかかる一時的な費用を補うための貸付が利用可能です。
(事例)
全国社会福祉協議会が提供する「総合支援資金」は、生活費や介護にかかる費用を補うための資金として無利子で貸し出されます。例えば、介護サービスの利用料や、介護用品の購入費用に充てることができます。返済期間は5年以内で、収入状況に応じて返済計画を立てることが可能です。
これらの制度を活用することで、介護休業中の経済的負担を軽減し、安定した生活を維持するための助けとなります。自治体や社会福祉協議会の支援制度については、各地の窓口で詳しい情報を確認し、適切に利用することが推奨されます。
2.給付金の申請手続きと受給資格の確認
前回の記事の繰り返しになりますが、重要なので、再確認を兼ねて掲載します。
1)給付金の申請手順
介護休業給付金を受給するためには、正確かつ迅速な申請手続きが必要です。
以下に手順を説明します。
① 申請書類の準備
申請書類=介護休業給付金支給申請書は、労働者が所属する会社の総務部門や人事部門から入手できます。
必要書類には、介護休業申請書、介護が必要な家族の診断書、休業期間の証明書などがあります。
② 提出先と必要な情報
申請書類は、企業を通じてハローワークまたは公共職業安定所に提出します。
提出には、本人確認書類や給与証明書なども必要です。
2)受給資格の条件
給付金を受給するためには、以下の条件を満たす必要があります。
① 労働時間と就業状況の確認
・介護休業前に、継続して雇用されていることが条件です。
・また、週20時間以上の勤務が必要です。
・休業中に他の仕事をしていないこと、つまり収入が発生しないことが前提となります。
② その他の条件
・過去2年間において、雇用保険の加入期間が12ヶ月以上であることが必要です。
3)受給までのスケジュール
給付金を受給するまでの期間とそのスケジュールは以下の通りです。
① 申請から受給までの期間
・通常、申請書類が受理されてから約2〜3ヶ月で給付金が支給されます。
② 支給スケジュール
・給付金は月ごとに支給され、休業期間終了後も申請手続きを行う必要があります。
③ 届出銀行口座への振込み
・介護休業給付金支給申請書に記載した、希望振込銀行口座に振り込まれます。
※ 関連リンク: 厚生労働省 介護休業給付金の手続きガイド https://www.mhlw.go.jp/content/000566588.pdf
4)給付金に関するQ&A:あるある疑問例
介護休業給付金についての種々の質問と回答を、厚労省のホームページで見ることができます。
ここでは、質問のリストを、HPから転載しました。
それぞれの回答は、こちらから確認して頂ければと思います。
3.現状の介護休業制度の運用上の問題点と対策
いざ労働者が介護の必要に直面した時、労使双方が仕事と介護の両立支援制度を十分に理解していない、もしくは制度を十分に活用できないことにより、介護離職に至るケースは多々あります。
1)介護休業中の心理的負担とその軽減策
介護休業中は、経済的な負担だけでなく、心理的な負担も大きくなります。
特に長期の介護が必要な場合、介護者自身の健康管理やストレス対策が重要です。
・ストレス対策の方法
専門家によるカウンセリング、リラクゼーション法の活用、適度な休息と運動などから選択可能な方法でストレスを溜めない、軽減するよう実践しましょう。
・家族や友人とのサポートネットワーク
介護者が孤立しないよう、家族や友人、地域のサポートネットワークを活用することが推奨されます。
2)企業側のサポート体制と法的義務
企業は、従業員が介護休業を円滑に取得できるよう、適切なサポートを提供する義務があります。
企業側が提供すべきサポートとして、次のような点が挙げられます。
・柔軟な勤務形態の提供
介護休業後の職場復帰を支援するため、短時間勤務や在宅勤務などの柔軟な勤務形態を提供します。
・職場復帰後の支援プログラム
介護休業から復帰した従業員に対して、スムーズに業務に戻れるよう、再教育やリハビリテーションプログラムの提供が望まれます。
※参考:厚生労働省 介護と仕事の両立支援策
3)2024年5月改正法における介護離職防止のための仕事と介護の両立を支援する事業主義務の拡充政策
前回の記事で、育児・介護休業法の改正が繰り返し行われていることを述べました。
その中で今年2024年5月に行われた改正について紹介し、事業者が、労働者の仕事と介護の両立を支援するための義務の拡充策が盛りこまれていました。
下図で確認頂ければと思います。
まとめ
介護休業制度は、介護を必要とする家族を支えるために設けられた重要な制度です。
介護休業中の生活費補填や家計の安定化策、給付金の申請手続き、そして現状の運用上の課題とその対策について理解することで、より安心して介護と仕事を両立させることが可能になります。
企業側も、従業員がスムーズに介護休業を取得し、復帰できるよう、適切なサポート体制を整えることが求められています。
次回は、「介護休暇と短時間勤務制度の特徴と利用方法」がテーマです。
(参考):「育児介護休業法」<介護休業>規定条文
第三章 介護休業
(介護休業の申出)
第十一条 労働者は、その事業主に申し出ることにより、介護休業をすることができる。ただし、期間を定めて雇用される者にあっては、第三項に規定する介護休業開始予定日から起算して九十三日を経過する日から六月を経過する日までに、その労働契約が満了することが明らかでない者に限り、当該申出をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、介護休業をしたことがある労働者は、当該介護休業に係る対象家族が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該対象家族については、同項の規定による申出をすることができない。
一 当該対象家族について三回の介護休業をした場合
二 当該対象家族について介護休業をした日数(介護休業を開始した日から介護休業を終了した日までの日数とし、二回以上の介護休業をした場合にあっては、介護休業ごとに、当該介護休業を開始した日から当該介護休業を終了した日までの日数を合算して得た日数とする。第十五条第一項において「介護休業日数」という。)が九十三日に達している場合
3 第一項の規定による申出(以下「介護休業申出」という。)は、厚生労働省令で定めるところにより、介護休業申出に係る対象家族が要介護状態にあることを明らかにし、かつ、その期間中は当該対象家族に係る介護休業をすることとする一の期間について、その初日(以下「介護休業開始予定日」という。)及び末日(以下「介護休業終了予定日」という。)とする日を明らかにして、しなければならない。
4 第一項ただし書及び第二項(第二号を除く。)の規定は、期間を定めて雇用される者であって、その締結する労働契約の期間の末日を介護休業終了予定日(第十三条において準用する第七条第三項の規定により当該介護休業終了予定日が変更された場合にあっては、その変更後の介護休業終了予定日とされた日)とする介護休業をしているものが、当該介護休業に係る対象家族について、当該労働契約の更新に伴い、当該更新後の労働契約の期間の初日を介護休業開始予定日とする介護休業申出をする場合には、これを適用しない。
(介護休業申出があった場合における事業主の義務等)
第十二条 事業主は、労働者からの介護休業申出があったときは、当該介護休業申出を拒むことができない。
2 第六条第一項ただし書及び第二項の規定は、労働者からの介護休業申出があった場合について準用する。この場合において、同項中「前項ただし書」とあるのは「第十二条第二項において準用する前項ただし書」と、「前条第一項、第三項及び第四項」とあるのは「第十一条第一項」と読み替えるものとする。
3 事業主は、労働者からの介護休業申出があった場合において、当該介護休業申出に係る介護休業開始予定日とされた日が当該介護休業申出があった日の翌日から起算して二週間を経過する日(以下この項において「二週間経過日」という。)前の日であるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該介護休業開始予定日とされた日から当該二週間経過日までの間のいずれかの日を当該介護休業開始予定日として指定することができる。
4 前二項の規定は、労働者が前条第四項に規定する介護休業申出をする場合には、これを適用しない。
(介護休業終了予定日の変更の申出)
第十三条 第七条第三項の規定は、介護休業終了予定日の変更の申出について準用する。
(介護休業申出の撤回等)
第十四条 介護休業申出をした労働者は、当該介護休業申出に係る介護休業開始予定日とされた日(第十二条第三項の規定による事業主の指定があった場合にあっては、当該事業主の指定した日。第三項において準用する第八条第四項及び次条第一項において同じ。)の前日までは、当該介護休業申出を撤回することができる。
2 前項の規定による介護休業申出の撤回がなされ、かつ、当該撤回に係る対象家族について当該撤回後になされる最初の介護休業申出が撤回された場合においては、その後になされる当該対象家族についての介護休業申出については、事業主は、第十二条第一項の規定にかかわらず、これを拒むことができる。
3 第八条第四項の規定は、介護休業申出について準用する。この場合において、同項中「子」とあるのは「対象家族」と、「養育」とあるのは「介護」と読み替えるものとする。
(介護休業期間)
第十五条 介護休業申出をした労働者がその期間中は介護休業をすることができる期間(以下「介護休業期間」という。)は、当該介護休業申出に係る介護休業開始予定日とされた日から介護休業終了予定日とされた日(その日が当該介護休業開始予定日とされた日から起算して九十三日から当該労働者の当該介護休業申出に係る対象家族についての介護休業日数を差し引いた日数を経過する日より後の日であるときは、当該経過する日。第三項において同じ。)までの間とする。
2 この条において、介護休業終了予定日とされた日とは、第十三条において準用する第七条第三項の規定により当該介護休業終了予定日が変更された場合にあっては、その変更後の介護休業終了予定日とされた日をいう。
3 次の各号に掲げるいずれかの事情が生じた場合には、介護休業期間は、第一項の規定にかかわらず、当該事情が生じた日(第二号に掲げる事情が生じた場合にあっては、その前日)に終了する。
一 介護休業終了予定日とされた日の前日までに、対象家族の死亡その他の労働者が介護休業申出に係る対象家族を介護しないこととなった事由として厚生労働省令で定める事由が生じたこと。
二 介護休業終了予定日とされた日までに、介護休業申出をした労働者について、労働基準法第六十五条第一項若しくは第二項の規定により休業する期間、育児休業期間、出生時育児休業期間又は新たな介護休業期間が始まったこと。
4 第八条第四項後段の規定は、前項第一号の厚生労働省令で定める事由が生じた場合について準用する。
(不利益取扱いの禁止)
第十六条 事業主は、労働者が介護休業申出をし、又は介護休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
(参考):育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 | e-Gov 法令検索
参考:「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」構成
投稿済みの記事にはリンクを貼っています。
関心をお持ち頂けた記事がありましたら、覗いてみてください。
1. 介護離職とは?その現状と原因
1-1:介護離職の定義と現状
1-2:介護離職の主な原因と影響
1-3:増加を続ける介護離職の背景と対策
2. 介護保険制度、保険外制度の活用と介護離職防止
2-1:介護保険制度の基本情報と手続き
2-2:要介護度認定と介護サービスの違い
2-3:在宅看護と介護保険外サービスの活用法
2-4:介護にかかる費用と負担軽減の方法
2-5:介護サービスの具体的内容と費用計算の基本
3. 介護施設・在宅介護の選択肢と介護離職防止
3-1: 介護施設の種類と特徴、選び方のポイント
3-2: 介護専門職の役割と選び方、関係つくり
3-3: 在宅介護のメリットとデメリット
3-4: 自宅介護と施設介護の併用方法と費用見積り
3-5: 介護の場所・方法の選択と介護離職防止対策
4. 自治体と地域の支援制度を理解し活用する
4-1: 自治体の介護関連支援制度と担当部署
4-2: 自身の自治体の介護支援制度と活用方法調べ
4-3: 地域包括支援センターの役割と利用方法
4-4: 介護制度を利用するための地域情報の事前調査と対策
5. 仕事と介護の両立を支援する制度を理解し活用する
5-1: 育児・介護休業法とその基本ポイント
5-2: 介護休業制度と介護休業給付金の活用法
5-3: 介護休暇と短時間勤務制度の特徴と利用方法
5-4: 職場の理解とサポートの重要性
6. 企業による介護離職防止策の取り組みと活用
6-1: 企業が提供する介護支援策とその実際の運用
6-2: 介護離職防止対策アドバイザーの役割と効果
6-3: 職場環境の整備と労働時間の柔軟な設定
6-4: 成功事例から学ぶ企業の取り組み
7. 家族との介護協力と介護離職防止対策
7-1: 家族間の協力とコミュニケーション、役割分担とメンタルケア
7-2: 介護休業と介護休暇の適切な活用法
7-3: ケアプランとデイサービスの利用と介護分担方法
7-4: 家族がいない場合の適切な対応方法
8. 介護離職防止を想定しての介護の事前準備・計画と相談
8-1: 介護に必要な情報の収集方法
8-2: 介護・見守り体制の整備と現状改善
8-3: 地域包括支援センターと相談サービスの利用方法
8-4: 緊急時の対応計画の策定
8-5: 介護方法の基礎知識・技術の理解と必須習得事項
9. 万一の介護離職後の再就職・転職とキャリア構築
9-1: 離職後の再就職支援制度とは?
9-2: 再就職に向けた準備と転職活動のポイント
9-3: 転職支援サービスとその活用法
9-4: 介護経験を活かした新たなキャリア構築の方法
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