
在宅介護のメリットとデメリット:「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」ー11
「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」シリーズは、前回から「第3章 介護施設・在宅介護の選択肢と介護離職防止」に入っています。
今回は、3つ目の課題「在宅介護のメリットとデメリット」を取り上げます。
第3章 介護施設・在宅介護の選択肢と介護離職防止
在宅介護のメリットとデメリット | 介護離職防止の実践ガイド

1.在宅介護とは?
1)在宅介護とは ー 定義と在宅介護の内容
在宅介護とは、高齢者や障がい者などの介護が必要な方が自宅で日常生活を送るために、介護者(家族や専門の介護スタッフ)が介護サービスを提供する形態を指します。
具体的には、以下のような内容が含まれます。
・身体介護:食事、排泄、入浴、着替え、移動の介助など、基本的な日常生活動作の支援。
・生活援助:掃除、洗濯、買い物、調理など、家事全般の支援。
・医療ケア:訪問看護、服薬管理、リハビリテーションなど、医療的な支援。
・心理的支援:介護者や被介護者のメンタルヘルスのケアやカウンセリング。
自宅での介護ですが、家族だけで介護を行うのではなく、外部の介護専門職の方や看護専門職の方に家に来てもらって介護や看護をしてもらうのも在宅介護(看護)であることを知っておきましょう。
2)在宅介護を選択する事情・理由と心構え
在宅介護を選択する背景には、以下のような事情や理由があります。
・家族の希望を優先し、家族との絆を大切にする
被介護者が家族に介護してもらいたい、介護する人が自分で介護したいという希望が優先し、その結果家族の絆が維持・形成されます。
・慣れ親しんだ環境で生活する
華族の希望と一致することですが、自宅で過ごすことが、被介護者にとっては、生活上の種々の場所や要領が分かっており、安心感をもたらすことが大きな要素です。
・費用面の考慮
種々のかつ多額の費用がかかる施設介護よりも在宅介護のほうが費用を抑えられることが一般的と考えられています。但し、この場合、家族が負担する身体的・精神的・時間的な負担やコストは考慮されても、試算されてもいません。
・柔軟なケアの提供
個別のニーズに応じた柔軟なケアが可能です。しかし、家族では対応できないケアが発生する場合には、外部のサービスを利用する必要があり、柔軟に対応することが簡単ではない場合もあり得ます。
2.在宅介護の利点(メリット)と日常生活への影響
前項の在宅介護を選択する理由背景と重なり合いますが、もう少し掘り下げて考えてみます。
1)家族の絆を深める
在宅介護は家族と過ごす時間を増やし、有形無形の効果をもたらし、絆を深めることができます。
<家族の結束>
・共同作業:介護を通じて家族全員が協力し合うことで、家族の結束が強まります。
・日常的な交流:介護をすることで、家族間のコミュニケーションが増え、お互いの理解が深まります。
・感謝の気持ち:介護を受ける側もする側も、互いに感謝の気持ちを持つことで、絆が深まります。
<世代間の交流>
・知恵の伝承:高齢者が持つ知識や経験を若い世代に伝える機会が増え、家族の歴史や伝統が継承されます。
・親密な関係の構築:親や祖父母との親密な関係が築かれ、子供たちにとっても良い影響を与えます。
2)介護者の安心感
自宅という慣れた環境での介護は、被介護者にとって精神的に安定しやすくなり、プラスの効果ももたらします。
<心理的安定>
・安心感:自宅という慣れた環境での生活は、被介護者にとって安心感を与え、精神的に安定しやすくなります。
・ストレス軽減:知らない場所や人に囲まれるストレスが減少し、リラックスした状態で過ごせます。
・個別対応:個別のニーズに応じた柔軟な対応ができるため、被介護者の満足度が高まります。
<生活の質(QOL)の向上>
・日常生活の継続:自宅での生活を続けることで、被介護者はこれまでの生活習慣を維持できます。
・プライバシーの確保:施設では難しいプライバシーの確保が、自宅では可能です。
・家族との交流:日常的に家族と過ごす時間が増え、社会的孤立感が軽減されます。
3)個別対応が可能
施設では難しい個別のケアが実現しやすいことも大きなメリットです。
<カスタマイズされたケア>
・個別のニーズに応じたケア:被介護者一人一人の状態やニーズに合わせたケアが可能です。
・柔軟なスケジュール:介護のタイミングや内容を柔軟に調整でき、被介護者のリズムに合わせたケアが提供できます。介護する人の都合も組み入れることもできます。
<専門的なケアの導入>
・訪問介護や訪問看護の利用:必要に応じて専門的なケアサービスを利用し、質の高い介護を提供します。
・リハビリテーションの導入:リハビリ専門のスタッフを訪問してもらい、在宅でのリハビリを実施します。
4)費用面での柔軟性
在宅介護のほうが費用を抑えられる場合があります。
以下のような観点から取り組んでみてください。
<費用削減のポイント>
・介護サービスの選択:必要なサービスだけを選んで利用することで、無駄な費用を抑えられます。
・介護保険の活用:介護保険を活用して、訪問介護やデイサービスなどの費用を軽減します。
・公的支援制度の利用:自治体の助成金や補助金を利用して、経済的負担を軽減します。
<経済的な計画>
・長期的な資金計画:将来的な介護費用を見据えて、計画的に資金を準備します。
・予算の見直し:定期的に予算を見直し、無駄な支出を削減します。
<設備投資の節約>
・必要最低限の設備投資:自宅での介護に必要な設備だけを導入し、過剰な投資を避けます。
・リースやレンタルの活用:介護用品のリースやレンタルを活用して、初期費用を抑えます。
以上、在宅介護のメリット、利点に焦点を当てて見てきました。

3.在宅介護の課題デメリットとその対策方法
前項で見てきたメリットに対して、実際には、その反対的な要素・要因から、さまざまな問題・課題が発生します。
この項で、その内容を改善・解決策も併せて確認していきます。
1)身体的・精神的負担
介護者自身の健康管理が重要です。具体的な対策としては、レスパイトケアや介護サービスの一時利用があります。
<身体的負担の軽減策>
・レスパイトケアの利用:介護者が休息を取るための一時的なケアサービス(ショートステイ、デイサービス、夜間ケア)を利用することで、身体的な負担を軽減します。
・リハビリテーションのサポート:介護者自身が体力を維持するためのリハビリプログラムやエクササイズを取り入れます。
・適切な介護技術の習得:介護者が正しい身体の使い方や介護技術を学び、無理な姿勢や動作を避けることが重要です。
<精神的負担の軽減策>
・カウンセリングやサポートグループ:介護者向けのカウンセリングやサポートグループに参加し、心理的なサポートを受けます。
・趣味やリラクゼーションの時間確保:定期的に趣味やリラクゼーションの時間を設け、ストレスを軽減します。
・レスパイトケアの活用:レスパイトケアを利用して、介護から一時的に離れることで、精神的なリフレッシュを図ります。
先述したレスパイトケア(Respite Care)とは、介護者(主に家族)が一時的に介護から解放され、休息やリフレッシュの時間を持つことができるようにするための以下のようなケアサービスです。
このサービスは、介護者の身体的・精神的な負担を軽減し、介護の質を維持するために重要な役割を果たします。
〇ショートステイ:介護施設に短期間入所することで、家族が一時的に介護から解放されるサービスです。数日から数週間の利用が可能です。
〇デイサービス:日中だけ施設でケアを受けるサービスで、家族が仕事や用事を済ませる間、被介護者を預けることができます。
〇訪問介護:介護者が外出する際や一時的に休息を取る際に、介護スタッフが自宅を訪問して介護を行うサービスです。
〇夜間ケア:夜間だけ介護を担当するスタッフが来て、家族が夜間の休息を取れるようにするサービスです。
レスパイトケアは、介護者が自分自身の健康とウェルビーイングを保つために非常に重要です。
また、介護者がリフレッシュすることで、被介護者に対してもより良いケアを提供できるようになります。
2)経済的負担
介護にかかる費用を計画的に管理するため、あるいは軽減するための助成制度の活用方法を紹介します。
<介護保険制度の活用>
・介護サービスの利用:介護保険を利用して、訪問介護、デイサービス、ショートステイなどのサービスを受けることで、費用を抑えます。
・介護保険外サービスの利用:介護保険が適用されないサービスについても、自治体やNPOなどの支援を活用します。
<助成金や補助金の申請>
・自治体の助成制度:各自治体が提供する介護支援助成金や補助金を調査し、申請手続きを行います。
・介護用品の補助:介護ベッドや車いすなどの介護用品に対する補助金を利用します。
<経済的負担の軽減策>
・予算管理:長期的な介護費用を見据えた予算計画を立て、計画的に資金を管理します。
・費用の見直し:介護にかかる費用を定期的に見直し、無駄な支出を削減します。
3)技術・知識の不足
介護の専門知識を習得するための研修や講座、オンラインリソースを活用し、不足する、あるいは必要な情報・知識を以下のような方法で入手します。
<研修や講座の受講>
・介護技術研修:地域の介護研修センターや民間の講座に参加し、最新の介護技術を学びます。
・専門資格の取得:介護福祉士やホームヘルパーなどの資格取得を目指し、専門的な知識を深めます。
<オンラインリソースの活用>
・介護情報サイト:信頼できる介護情報サイトで最新の情報を収集し、知識をアップデートします。
・オンライン講座:インターネットを通じて受講できる介護講座やウェビナーに参加します。
<地域のサポート>
・地域包括支援センター:地域包括支援センターに相談し、必要な情報やサポートを受けます。
市区町村の福祉担当部署に電話で連絡するかホームページから相談しましょう。
・介護者同士のネットワーク:地域の介護者同士で情報を共有し、互いにサポートし合います。
・介護施設:もちろん、近くにある介護施設に質問や相談を積極的に行うこともよいでしょう。
4)時間管理の難しさ
仕事との両立を図るための時間管理方法やスケジュール調整のポイントを説明します。
<スケジュールの見直し>
・優先順位の設定:介護と仕事、家庭生活の優先順位を明確にし、効率的に時間を使います。
・タイムマネジメントツールの活用:スケジュール管理アプリやカレンダーを活用して、予定を整理します。
<介護と仕事の両立>
・フレキシブルな働き方:テレワークやフレックス勤務制度を利用し、仕事と介護の両立を図ります。
・職場の理解と協力:上司や同僚に介護の状況を説明し、職場の理解と協力を得ます。
<サポート体制の確立>
・家族や友人の協力:家族や友人に協力をお願いし、介護負担を分担します。
・地域のサポートサービス:地域のボランティアや支援サービスを活用し、時間的な負担を軽減します。
4.結城康博氏著『在宅介護』〈2015年8月20日刊・岩波新書)に見る在宅介護・家族介護の実態と限界点
結城康博氏の『在宅介護』の「第1章 在宅介護の実態」と「第2章 家族介護の実態」では、在宅介護と家族介護の現状と問題点を詳述しています。
その2つの章から以下、私なりの考えを付け加えて整理してみました。
1)在宅介護の現状
・高齢化社会の進展
日本では高齢化が進み、在宅で介護を受ける高齢者の数が増加しています。
・在宅介護の普及
介護保険制度の導入により、在宅での介護が推進されてきましたが、その実態は必ずしも容易ではありません。
2)在宅介護の問題点
・介護者の身体的・精神的負担
在宅介護を行う家族は、肉体的・精神的な負担が非常に大きいです。
介護者が疲弊し、自らの健康を損ねるケースも少なくなく、r時に家族や自身を殺める悲しい事件も発生しています。
・社会的孤立
介護者は介護に専念するあまり、社会から孤立することが多い側面があります。
友人や職場との関係が疎遠になり、精神的な支えを失うこともその要因の一つです。
・経済的負担
在宅介護には多額の費用がかかります。
被介護者の年金収入や預貯金だけで介護費用を賄うことが困難な例も多い現状があります。
介護に専念するために仕事を辞めざるを得ない場合もあり、収入が断たれたり、大きく減少するなど家計に大きな影響を及ぼします。
・専門的知識・技術の不足
家族が専門的な介護知識や技術を持たないことが多く、不適切な介護が行われるリスクがあります。
必要な介護サービスや支援制度を知らないことも問題です。
3)家族介護の限界
・介護者の高齢化
介護を行う家族自体が高齢化しており、自らも介護が必要な状況に陥ることが増えています。
高齢者が高齢者を介護する「老老介護」の問題が深刻です。
・介護の担い手の不足
少子化の影響で、介護を行う世代が減少し、介護の担い手が不足しています。
単身高齢者や子供のいない夫婦にとっては、介護が一層困難です。
・介護負担の偏り
介護の負担が一部の家族に集中しやすく、特定の家族が過度な負担を背負うことになります。
介護負担の分散や支援の必要性が求められています。
・社会的支援の不足
公的支援や地域社会の支援が十分に機能していないケースが多いです。
・家族だけでなく、社会全体で支える体制の整備が必要です。
本書を、介護に関する書のバイブルと評価しています。
ほぼ10年前に出版され、その時に既に種々問題提起している書ですが、本質的な問題は、現在も何ら変わることがありません。ご一読をお薦めします。
※『在宅介護-「自分で選ぶ」視点から』
※これらの内容は、次の「3-4: 自宅介護と施設介護の併用方法と費用比較」「3-5: 介護の場所の選択・方法の選択と介護離職防止対策」で扱う課題でもあります。
以上、今回は、実際に家族を介護することになる場合、なった場合に、自宅で行う介護、在宅で行う介護を想定し、プラス面、マイナス面、発生しうる問題点などについて考えてみました。
次回は、既に見てきた各種介護施設における介護と今回取り上げた在宅・自宅介護を組み合わせて介護を考える「自宅介護と施設介護の併用方法と費用見積り」をテーマとします。

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