
増加を続ける介護離職、その背景と対策を考える:「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」ー3
前々回から、「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」というテーマでのシリーズを始めています。
今回は、第3回。
「第1章 介護離職とは? 介護離職の定義と現状を知ろう」の第3項「増加を続ける介護離職、その背景と対策を考える」で第1章を締めくくります。
第1章 介護離職とは? 介護離職の定義と現状を知ろう:1-3 増加を続ける介護離職、その背景と対策を考える
介護離職は増加の一途をたどり、問題はますます深刻化しています。
その背景にはどのような要因があり、それに対する対策はどのように進められるのでしょうか。
本記事では、介護離職増加の背景と、それに対する対策について詳しく解説します。
1.介護離職増加の背景
1)高齢化社会の進展と少子化の影響
日本は急速に高齢化が進んでおり、介護を必要とする高齢者の数が増加しています。これに伴い、介護を担う家族の負担も増しています。
・高齢者人口の増加:65歳以上の人口割合は2021年時点で約29%であり、2025年には約30%に達すると予測されています。高齢者の人口増加は介護の需要を押し上げ、家族にとっての負担を増大させています。
・要介護認定者の増加:要介護認定を受けている高齢者の数は2021年時点で約700万人に達しています。この増加は、介護離職の増加にも直接的に影響しています。
・高齢化社会の更なる進行:さらに、団塊世代が2024年には全員75歳以上の後期高齢者となり、2040年には団塊世代ジュニアが高齢者となります。これにより、介護を必要とする高齢者の数はさらに増加することが予想されます。
・少子化による介護の担い手不足:高齢化は少子化と一体に進んでおり、2)以降で述べるように、高齢者の子どもの数の減少と介護職員要員(年齢)数の減少は、やはり介護離職を誘発する大きな要因となります。

2)世帯構成の変化と進行
三世帯・二世帯家族が二世帯家族・一世帯家族、単身世帯へと、核家族化と並行して世帯構成における家族数が減少。これは、介護を担う人数の減少し、一人当たりの負担の増加をもたらします。
・家族構成の変化:多数家族世帯から少数家族世帯、そして単身世帯家族へとシフトが進んでいます。このため、複数の家族構成員で介護を分担することが難しくなっています。
・介護負担の集中:少数家族世帯化により、仕事を持ちながら介護を担うべき人が増え、負担が集中することから、自ずと介護離職に至るケースが増えていきます。
参考:「日本の世帯数の将来推計(全国推計)-令和6(2024)年推計-」

3)介護サービスの需要と供給のギャップ
介護サービスの需要が供給を上回っており、必要なサービスを受けられないケースが増えています。
・サービス利用の難しさ:特別養護老人ホームやグループホーム、ホームヘルプの利用待機が発生しており、必要なサービスを受けるまでの待機期間が長くなっています。これにより、家族の介護負担が増しています。
・サービス提供者の不足:介護職員の不足や前項のようなサービス提供施設の不足が問題となっています。介護職員不足で、サービス利用者を受け入れることができない施設が増えているのです。こうした介護サービスの供給不足が、家族介護者の負担を増大させる要因となっています。
4)社会的支援の不足
社会的支援が十分でないため、介護者が全てを抱え込む状況が続いています。
・支援制度の不十分:介護保険制度の限界や地域コミュニティの支援不足が問題です。国から地方自治体へ介護サービス事業主体が移管され、地方財政問題などを背景に、制度の利用条件や支援内容に限界があり、全ての介護者が必要な支援を受けられていない現状です。
・情報提供の不足:以上述べてきた諸問題がまだまだ多様にありますが、これも含め、適切な支援を受けるための情報が不足しています。多くの介護者は、どのような支援が利用可能か、利用できないのかについて十分な情報を持っていないため、適切かつ状況に応じた支援を受けることが難しくなっています。
2.現状の対策とその評価
1)政府や自治体の施策
政府や自治体は介護離職を防ぐための様々な施策を講じていますが、その効果には限界があります。
・介護保険制度の改正・改悪:介護保険財政の悪化とその将来予測から、介護保険制度の改正ならぬ改悪が進められ、自己負担の引き上げた保険適用サービス利用の縮減が進められる傾向が続いています。
・支援制度の拡充:国や地方自治体の財政的負担対策を進める一方、企業サイドへの負担を強化する傾向が顕著で、介護休業・休暇制度の拡充を法制化することが続けられています。その中には、介護者への休業手当等経済的支援も含まれることもありますが、企業規模などで適用条件が異なるなど課題があります。
2)企業の取り組み
企業も介護離職を防ぐための取り組みを行っていますが、企業規模や個々の企業による対応には大きなばらつきがあり、大きな問題が残されています。
・介護休業制度:介護休業の取得促進やフレックスタイム制度の導入が進められていますが、実際に利用する従業員が少ないのが現状です。また企業規模や業種・業態による格差が大きく、多くの自営業者には改善・解消が困難な問題です。
・在宅勤務の推進:リモートワークの導入や仕事と介護の両立支援が行われていますが、業種・職種により限界があり、かつ同一企業においても全ての職場での導入には限界があります。
3)地域コミュニティやNPOの活動
地域コミュニティやNPOも重要な役割を果たしていますが、支援の広がりや質の向上が求められます。
・地域の支援ネットワーク:地域包括ケアシステムの構築やボランティア活動の促進が行われていますが、自治体の資源やその認知度や参加者の確保に課題があります。
・NPOの役割:介護者支援プログラムの提供や情報発信が行われていますが、自治体の支援や協力支援者の拡充など財政的・資源的問題は慢性的ですし、加えて支援の質の向上やサービスの拡充が求められます。

3.今後の課題と提案
既に、前項の<現状の対策と評価>で今後の課題の一部を先取りしています。
そのうえで、一般論的に、介護離職を抑制・防止するための<今後の課題と提案>を以下整理してみます。
1)さらなる介護支援制度の充実
介護支援制度のさらなる改善と充実が求められます。
・介護休暇制度の拡充:介護休暇制度の利用条件を緩和し、より多くの介護者が利用できるようにすることが必要です。例えば、介護休暇の取得期間を延長し、経済的支援も強化することで、介護者の負担を軽減できます
・経済的支援の拡充:介護者への経済的支援を拡充することで、介護による経済的な負担を軽減することが重要です。具体的には、介護者手当の支給・増額や介護費用の補助を制度化・法制化する方策もあります。
・介護サービスの利用しやすさの向上:介護サービスの利用手続きを簡略化し、必要なサービスが迅速に提供されるようにすることが求められます。例えば、オンライン申請システムの導入やワンストップサービスの提供が考えられます。
ここでは、「誰が」これらの支援制度改正の主体なのか、注視していきたいと思います。
2)介護に関わる社会全体での意識改革
介護離職を防ぐためには、介護に関係する社会全体での意識改革が必要です。
・介護者支援の意識向上:介護者に対する理解と支援の意識を高めるための啓発活動を強化することが大切です。メディアや教育機関を通じて、介護の現実や介護者の負担についての理解を深める取り組みが求められます。
・企業の介護支援意識の向上:企業内での介護支援の意識を高めることが必要です。例えば、企業研修で介護に関する情報提供を行い、従業員が介護と仕事を両立できるようにサポートする取り組みが考えられます。
・地域社会での支援意識の醸成:地域社会全体で介護者を支える意識を醸成することが不可欠です。地域コミュニティや自治体が連携し、介護者支援のためのプログラムを充実させることが求められます。
果たして、「社会」に意識があるのか?と言いたくもなるのですが、「関係する社会」と言えば、特定され、主体が明確になります。
一般論的に「社会」と簡単に、無責任に片づけることなく、どの社会かを明確にして取り組むべきです。
3)テクノロジーの活用による介護負担の軽減
テクノロジーの活用は介護負担の軽減に大きな可能性を持っています。
・介護ロボットの導入:介護ロボットは、身体介護の負担を軽減するための重要なツールです。移動支援ロボットや見守りロボットなど、さまざまなロボット技術を活用することで、介護者の身体的負担を減らすことができます。
・IoT技術の活用:IoT技術を活用して、在宅介護の効率化を図ることができます。センサーを用いた見守りシステムや、遠隔操作可能な介護機器を導入することで、介護者が離れていても高齢者の安全を確保できます。
・AIによるケアプランの最適化:AI技術を用いることで、個々の利用者に最適なケアプランを自動的に作成することが可能です。これにより、介護者が適切なケアを提供できるようになり、介護の質が向上します。
ただこうしたIT技術およびサービスは、低価格で利用が可能になってはじめて、介護とその費用を負担する人に有効・有用です。それ以前に介護施設・介護事業所への導入が先行して行われ、日常化されるべきで、まだまだハードルは高いと考えます。

4.家族介護を担う人々にお願いしたいこれからの行動
自分自身の努力や準備も重要です。
家族介護を担う可能性がある人々は、当シリーズの構成に従って進められる残り7つのステップをぜひ参考にして頂き、情報収集と準備を進めていって頂きたいと思います。
1)介護保険制度、保険外制度の活用と介護離職防止
2)介護施設・在宅介護の選択肢と介護離職防止
3)自治体と地域の支援制度を理解し活用する
4)仕事と介護の両立を支援する制度を理解し活用する
5)企業による介護離職防止策の取り組みと活用
6)家族との介護協力と介護離職防止対策
7)介護離職防止を想定しての介護の事前準備・計画と相談
一応、以下に、これと関係なく、行動のためのメモを書き添えました。
・情報収集:介護に関する情報を積極的に収集し、どのような支援が受けられるかを把握することが大切です。これにより、必要なときに適切な支援を受ける準備ができます。
・経済的準備:介護が必要になった場合に備えて、経済的な準備をしておくことが重要です。介護には予期せぬ費用がかかることが多いため、早めの準備が求められます。
・家族間の話し合い:家族全員で介護について話し合い、役割分担や支援の方法を共有することが重要です。これにより、介護の負担を分散し、家族全員が協力して役割を果たすことができます。
・介護技術の習得:必要な介護技術を学んでおくことで、介護の質を向上させることができます。地域の介護講座やオンライン講座を利用して、基礎的な介護技術を習得することが勧められます。
・自己ケア:介護者自身の健康管理も重要です。介護は身体的・精神的に大きな負担を伴うため、自分自身の健康を保つための時間を確保し、適切なストレス管理を行うことが必要です。
当初、最後のこの4項のタイトルに、自分自身の「意識改革」と「行動改革」という用語を含めようと思いました。しかし、常々、意識の改革は行動が変わることでしか認めることはできない、と考えており、また「改革」と言うことほどのものでもない、と「行動」のみ残しました。
その行動も、ムリがあってはいけないですし、日常生活を通してのモノ、コトであればと思います。
以上で、「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」の第1章「介護離職とは? 介護離職の定義と現状を知ろう」を終わります。
8ステップの第1ステップという位置づけでしたが、初めに介護離職とはなにか、なぜ起きるか、これからどうなりそうかという基本を確認する内容で、冒頭述べたように序章というべきものでした。
次回から、以下のシリーズ構成に従い、実際に介護離職を防ぐための必要なコト、知識・情報・対策の具体論のスタートとして、「第2章 介護保険制度、保険外制度の活用と介護離職防止」に入ります。

「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」構成(予定)
1. 介護離職とは?その現状と原因
1-1: 介護離職の定義と現状
1-2: 介護離職の主な原因と影響
1-3: 増加を続ける介護離職の背景と対策
2. 介護保険制度、保険外制度の活用と介護離職防止
2-1: 介護保険制度の基本情報と手続き
2-2: 要介護度認定と介護サービスの違い
2-3: 在宅看護、保険外サービスとその他の支援制度の利用可能性
2-4: 介護にかかる費用と負担軽減の方法
3. 介護施設・在宅介護の選択肢と介護離職防止
3-1: 介護施設の種類と特徴、選び方のポイント
3-2: 介護専門職の役割と選び方
3-3: 在宅介護のメリットとデメリット
3-4: 自宅介護と施設介護の併用方法と費用比較
4. 自治体と地域の支援制度を理解し活用する
4-1: 自治体の介護関連支援制度と担当部署
4-2: 自身の自治体の介護支援制度と活用方法調べ
4-3: 地域包括支援センターの役割と利用方法
4-4: 介護制度を利用するための地域情報の事前調査と対策
5. 仕事と介護の両立を支援する制度を理解し活用する
5-1: 育児・介護休業法とその基本ポイント
5-2: 介護休業制度と介護休業給付金の活用法
5-3: 介護休暇と短時間勤務制度の特徴と利用方法
5-4: 職場の理解とサポートの重要性
6. 企業による介護離職防止策の取り組みと活用
6-1: 企業が提供する介護支援策とその実際の運用
6-2: 介護離職防止対策アドバイザーの役割と効果
6-3: 職場環境の整備と労働時間の柔軟な設定
6-4: 成功事例から学ぶ企業の取り組み
7. 家族との介護協力と介護離職防止対策
7-1: 家族間の協力とコミュニケーション、役割分担とメンタルケア
7-2: 介護休業と介護休暇の適切な活用法
7-3: ケアプランとデイサービスの利用と介護分担方法
7-4: 家族がいない場合の適切な対応方法
8. 介護離職防止を想定しての介護の事前準備・計画と相談
8-1: 介護に必要な情報の収集方法
8-2: 介護・見守り体制の整備と現状改善
8-3: 地域包括支援センターと相談サービスの利用方法
8-4: 緊急時の対応計画の策定
8-5: 介護・介助方法の基礎知識・技術の理解と必習事項
9. 万一の介護離職後の再就職・転職とキャリア構築
9-1: 離職後の再就職支援制度とは?
9-2: 再就職に向けた準備と転職活動のポイント
9-3: 転職支援サービスとその活用法
9-4: 介護経験を活かした新たなキャリア構築の方法
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