
介護離職の主な原因とその影響とは?:「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」ー2
前回から、「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」というテーマでのシリーズを始めました。
「介護離職とは? 介護離職の定義と現状を知ろう (kaigoshukatsu.com)」
と題した第1回に続き、今回は「介護離職の主な原因とその影響とは?」をテーマとして、介護離職の基本について整理してみます。
第1章 介護離職とは? 介護離職の定義と現状を知ろう:1-2 介護離職の主な原因とその影響とは?
介護離職の問題は年々深刻化しています。
家族の介護を理由に仕事を辞める人が増加しており、その影響は本人個人だけでなく、家族や社会全体にも及びす。
本記事では、介護離職の主な基本的原因とそれが及ぼす影響について探ります。
1. 介護離職の主な原因
1)介護と仕事の両立の難しさ
介護と仕事を両立させることは多くの人にとって困難です。
次のような要因から、仕事を続けながら介護を行うことを難しくしています。
・時間的制約:介護時間の確保が難しく、介護のために残業ができない、あるいは勤務時間の調整が必要となることが多い。
・職場の理解不足:すべてがそうだというわけではありませんが、職場によっては、介護休暇制度の活用の難しさや、同僚からのプレッシャー、上司の理解が得られない事例が多く報告されています。
・遠距離介護:親や親族が遠方に住んでいる場合、移動時間や費用が大きな負担となります。
2)介護サービスや支援制度の不足
介護サービスや支援制度の不足も、介護離職の一因です。
必要なサービスを受けられないことで、家族が全てを抱え込むことになります。
・介護サービスの不足:時間的・物理的にデイサービスやショートステイの利用が難しい、あるいは施設入所ができなくて、長期的・安定的に外部介護支援が得られない場合も介護離職に繋がります。
・支援制度の不十分:公的支援の限界や申請手続きの煩雑さも問題です。
・情報提供の不足:適切な支援を受けるための情報が十分に提供されていないことが多く、情報収集ができないまま介護離職に繋がります。
3)介護負担の増大
前述の種々の要因が重なることで、介護負担はさらに増大します。
特に要介護度が高い場合、日常生活全般のサポートが必要となり、介護者に大きな負担がかかり、結局介護離職を余儀なくされます。
・要支援・要介護度の違い:要支援1から要介護5までの認定と状況により、必要なケアの内容や量が大きく異なり、対応も異なります。
・家族構成や同居状況:同居か別居状態か、他に介護を担う家族がいるかどうか、いわゆる家族資源も影響します。
・介護者の健康状態:介護者自身が高齢であったり、健康状態によっては、介護負担がさらに増します。
・精神的負担:孤独感やストレス、不安が増大も介護離職に向かわせることになります。
4)介護される家族の希望
介護される家族自身が家族に介護をしてもらいたいと強く希望するケースもあります。
高齢者や要介護者が見知らぬ他人に介護されることに対して不安や抵抗感を持つ場合、家族が介護を担わざるを得ない状況が生じます。
・心理的要因:安心感や信頼関係を重視するため、家族による介護を望む場合が非常に多いのが現実です。
・文化的背景:家族による介護が当然とされる文化や伝統が影響することも多々あります。いわゆる面倒を見ないことへの非難を強く感じてしまうのも介護離職に至らせるのです。

2. 介護離職の影響
では、実際に介護離職をしてしまった場合、どのような影響があるか、基本的な例を整理してみました。
1)経済的負担の増大と生活困難
介護には多大な費用がかかります。以下のような要因から、介護費用の負担が家計を圧迫し、介護離職以前とは一変して、一層経済的困難が発生します。
・収入減少:介護のために働ける時間が減少もしくはなくなり、収入が減少する、もしくはゼロになります。
・介護費用:介護施設の利用料、在宅介護にかかる費用、医療費が思いのほかかかることが多いものです。
・保険外サービスの利用:介護保険サービスだけでは対応できない場合も介護には十分あり得ることで、保険外サービスの利用では負担が増大します。
2)個人への他の影響
介護離職は個人に深刻な影響を及ぼします。キャリアの中断により、生活の質が低下し、精神的な負担も増します。
・生活の質(QOL)の低下:収入減や介護に充てる時間が主になることでにより、ライフスタイルが一変し、その質が低下します。
・キャリアの中断:再就職が難しくなり、キャリア形成が停滞します。
・精神的負担:社会的なつながり、人間関係が希薄になり、孤立感やストレスの増加に繋がります。
3)家族への影響
介護離職は家族にも大きな影響を与えます。家族関係の変化や他の家族メンバーへの負担が増すことで、家庭内のバランスが崩れます。
・家族関係の変化:役割分担や生活の変化が、新たな家庭内の緊張感をもたらし、家族関係に変化が起きます。
・他の家族への負担:子どもの世話や家事の負担など役割分担も変化し、他の家族メンバーの介護負担が増加するケースもありえます。
4)社会への影響
介護離職は社会全体にも影響を及ぼします。
介護離職した個人に直接関係はありませんが、労働力不足や財政負担の増加が社会的な問題となります。
・労働力不足:労働者・労働人口の労働市場からの退場により、人材不足や企業の生産性低下が懸念されます。
・財政負担の増加:離職者の発生は、所得税収減少、納付社会保険料の減少を招き、財政負担増をもたらします。

3. 介護離職関連データと統計
最後に、こうした介護離職の原因や影響に関する厚労省等の公的統計資料から、前回記事で紹介した内容と一部類似・重複しますが、紹介しておきたいと思います。
⇒「介護離職とは? 介護離職の定義と現状を知ろう (kaigoshukatsu.com)」
1)「令和元年度 仕事と介護の両⽴等に関する実態把握のための調査研究事業」から
参考:mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200711_00002.html 及び 000825755.pdf (mhlw.go.jp)
000722894.pdf (mhlw.go.jp)
この調査データでは、介護離職を防ぐための施策とデータ等が示されています。
働き盛りの世代が介護を必要とする状況が増加しており、特に介護者の多くが女性で40代から50代に集中しています。介護休業制度の利用や企業の両立支援策の周知徹底が重要です。
分析結果①:介護離職者の属性
性別:性別や年齢分布のデータから、女性が多く、特に40代から50代に集中していることが分かります。
職業:職業別の分布と企業内での役職に関するデータから、離職者には、企業の中核を担う正規雇用者が多いことが分かります。
問題点:介護休業制度の利用が不十分で、職場の理解不足が顕著であることが離職に繋がっていると推測されます。
分析結果②:介護離職の発生率
年間の介護離職者数:約10万人。ページ 25:年間の介護離職者数とその推移。
主な原因:介護負担の増大、経済的理由、介護サービスの不足。ページ 30:主な離職理由の内訳。
2)「令和3年 毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査)」から
参考:毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
および https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000877296.pdf 毎月勤労統計調査結果(PDF)
この調査では、雇用や労働環境に関するデータが収集されており、介護離職者の経済状況や雇用形態の変化が分かります。
介護離職後の収入減少が顕著であり、正規雇用から非正規雇用への移行が多いこと、非正規雇用者の割合が高いこと、再就職が困難であることなどが示され、介護離職者に大きな影響を及ぼしていることが分かります。
その背景・要因として介護を継続することで時間的な制約が生じ、介護離職を余儀なくされていることが想定されるでしょう。
分析結果①:介護離職者の経済状況
・収入減少:介護離職後の収入減少が顕著です。
・雇用形態の変化:非正規雇用への移行が多いことが分かります。
分析結果②:再就職の難しさ
・再就職率:再就職率が低いことから再就職が難しいことが分かります。
・原因:介護の継続による時間的制約が大きいことが再就職の難しさを示しています。
3)「令和3年 厚生労働統計調査(毎月勤労統計調査)」から
参考:毎月勤労統計調査 令和3年分結果確報|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
この統計では、介護離職に関連する各種統計データが提供されています。
上記の「令和元年度 仕事と介護の両⽴等に関する実態把握のための調査研究事業」調査と同じ観点である、介護認定者数の推移や介護離職者の属性、発生率などが含まれており、介護離職の実態が把握できます。
そのため、分析結果が重複している箇所もあります。
分析結果①:介護離職者の属性
・年齢層:介護離職者の年齢分布は40代から50代が多い。
・雇用形態:介護離職者には正社員が多く、特に役職者・管理職が多い
分析結果②:介護離職の発生率
・増加傾向:年々離職者数が増加しています。
・主な原因:介護認定者数の推移と離職者数の関係が示され、介護認定者数の増加、介護サービスの不足が離職に繋がっていることが原因と推察されます。
介護離職は多くの原因が複雑に絡み合った結果として発生し、その影響は個人や家庭、社会全体に広がります。
本記事で紹介した原因と影響を理解し、介護離職に至ることがないように、自身の家族介護をめぐる現状の課題を整理する機会を持っていただきたいと思います。
あるいは、ご自分が介護される立場となることを考えると、介護を委ねることになるかもしれない現役世代家族が介護離職を余儀なくされることがないように、立場を置き換えて考えて頂きたいと思います。
次回は今回のテーマを継続・発展させて「介護離職増加の背景と対策」について深掘りします。

※前の記事は、介護離職とは? 介護離職の定義と現状を知ろう
※次の記事は、増加を続ける介護離職、その背景と対策を考える:「介護離職しないための8ステップ+1と実践法」ー3
以下に介護離職をテーマとした当サイト掲載記事を挙げました。
参考にして頂ければと思います。
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